ゆるしの心理学

心理学における「許し(forgiveness)」に関する論文や著作のあらすじとコメントをのっけます。

論文:許しの心理学

 

McCullough, M. E., & Witvliet, C. v. O. (2011). The Psychology of Forgiveness. In S. Lopez, C. Snyder(Ed.), The Oxford Handbook of Positive Psychology. 2nd ed. New York: Oxford University Press, pp.446-458.

 

大まかな内容

 人は傷つけられたとき、その危害を加えた者に対して、ほとんどの人は回避か復讐を探ることを動機づけられる。しかし、心理学的にも復讐はさらに大きな攻撃を生んでしまうとされる。そのサイクルを断ち切るのが許しである。

 許しは、心理学的に「赦免すること(pardoning)」「容赦すること(condoning)」「免責すること(excusing)」「忘却すること(forgetting)」「否認(denial)」とは異なるものであるとされる。許しは「反応(response)」「人格的傾向(personality disposition)」「社会的ユニットの性格(characteristic of social units)」の三つ側面から定義されている。「反応」としての許しの定義については様々なものがあるが、それらの中核は「その人が許すのであれば、その人の加害者や攻撃者への反応のうち、否定的なものは減り肯定的なものが増える」ということである。人格的傾向としての許しは、様々な対人関係的状況に渡って生じる。社会的ユニットの性格としての許しは、親密さ、信頼、コミットメントと似たようなものに帰属され、またある社会的コミュニティはかなりの度合いで許しによって性格づけられている。

 許しを測定スケールとして、Enright Forgiveness Inventory(EFI)、Transgression-Related Interpersonal Motivations(TRIM)、Transgression Narrative Test of Forgiveness(TNTF)など、他にはForgiveness of Others ScaleとForgiveness of Self Scareも存在している。

 今までの許しに関する研究からは、以下のようなことが明らかになりつつある。一般的に人々は年を取るほど許すようになる。また、「応報的許し」「予期的許し」「社会的調和の許し」という段階説も唱えられている。人格と許しの関係として、許す人々は不安・うつ・敵意が低く、強迫的ではなく、より共感的であり、社会的に望ましい行動や態度を支持している。ビッグファイブとの関係性では、協調性と情緒不安定性と関係があるとされる。許しは、加害者と状況によっても、もちろん影響されるものである。おそらく、謝罪や釈明は、加害者とその行為を分別させる役割があると思われる。加害者と近い関係性にあることは許しを促進するし、加害者本人への許しも促進する要素である。自己への許し(self-forgiveness)尺度は、他者への許し尺度よりも、より鬱、怒り、不安、低い自己評価と関連する。許しと精神的健康は関係があると思われるが、方法論的な欠陥も指摘されている。小グループや構造化面接では、自己評価やその他精神的健康に許しが寄与するようである。また、肉体的健康との関係も示唆される。許しを促進するような介入はある程度の効果が見込まれる。

 将来の研究の課題としては、以下のものがある。まず、許しをどのように特定の関係のコンテキストと結びつけるか?許しの前提条件とは?許しにどのように至るのであろうか?本当に許し精神的・肉体的健康と関係があるのか?非常にシビアで、トラウマティックな状況においては、許しが示されにくい方がよりよくその人の機能が働いている可能性があるのではないか?また、方法論的問題もある。今までの調査は自己質問形式がほとんどであり、「囚人のジレンマ」の研究などの方法論を取り入れるべきではないだろうか。

 許しは、いにしえから贖罪、徳、社会的調和をもたらすものとして語られてきた。今後、更なる研究が望まれている分野である。

 

コメント

オックスフォードから出ている、ポジティブ心理学のハンドブックの記事。現在は第三版が出版されていて、どうやらそれは違う内容になっているみたいだけど未入手。筆者は許し研究の第一人者のMcCulloughとWitvliet。大雑把なイントロダクションという感じ。付録にTransgression-Related Interpersonal Motivations(TRIM)もついてるよ。

 

URL

http://homepage.psy.utexas.edu/homepage/Class/Psy418/Josephs/Wynne%20Folder/32-Forgiveness.pdf

 

問い合わせなどありましたらokazukinekoあっとじーめーるどっとこむ、まで。