ゆるしの心理学

心理学における「許し(forgiveness)」に関する論文や著作のあらすじとコメントをのっけます。

論文:許しのアートと科学に関する最初の疑問

Worthington. E.L., Jr. (2005). Initial Questions About the Art and Science of Forgiving. In E. L. Worthington, Jr.(Ed.), Handbook of Forgiveness. London: Routledge, pp.1-14.

 

大まかな内容 

 許しはアートであり科学である。しかし許しの科学は近年のものである。1970年代には目につくような許しの科学的な研究の論文は一切なく、それは宗教の領域のものであった。許しの科学的研究は 980年代半ばに始まり、それは爆発的に加速していくことになる。もっとも、最初の研究所は神学者のものであったが。続いては発達心理学者である、Robert Enrightが続くことになる。1980年代中頃には、多くの人は許しは宗教と結びついたものとして考えられたが、しかし現在では公の注目を浴びるものとなっている。

 科学としての許しには、八つの疑問が付随している。

 まず一つ目の問いは、「何が許しであるか」ということである。最初の許しの代表的な研究者としてあげられるのが、Enright(Enright & Fitzgibbons, 2000)である。彼は、許しとは否定的な考え、行動、そして感情が、より肯定的な考え、行動、感情に置き換わるものであるとした。また彼は、許しをプロセスとして理解し、許しのプロセスモデルを、介入のモデルとして提示した。それは科学的なエビデンスを示すものではなかったが、しかしヒューリスティックな仮説を提示することになった。次にあげられるのは、Micheal McCulloughとその仲間たちであり、許しをモチベーションの再方向付けとして提示することになった。彼ら((McCullough, Fincham, & Tsang, 2003)は、間違いを犯した人への、和解的な動機付けの上昇を伴う否定的な動機付けの低下、として許しを定義付けた。その協力者の一人であるFichman(2005)は、否定的動機付けの低下と肯定的な動機付けの上昇を許しの重要な要素としている。Worthington (2003)は、許しを二つのタイプに分ける。それが感情的な許しとしての、否定的な感情が肯定的な感情に入れ替わるというものと、決断的な許しとしての、加害者への行動の志向性の変化というものである。他にも認知的な側面や、対人関係でのコンテキストで生じるものとして許しを捉えようとの試みが、心理学者たちからなされている。こうした「ショットガン」的なアプローチに対して、McCulloughら(McCullough, Pargament, and Thoresen, 2000)は、それらに共通する許しの核となる要素として「加害後の経験における向社会的変化」を取り出す「ライフル」的なアプローチを試みている。

 二つ目の問いは、どのような方法で許しを図ることが適切かということである。

 三つ目の問いは、許しはいかにして宗教と関わっているかということである。

 四つ目の問いは、そのプロセスに関わる人に許しはどのような影響を与えるかというものである。許しは、内的なもの、二人の対人関係、社会的・政治的コンテキストに含まれる対人関係の高度に複雑に絡み合ったものである。

 五つ目は、許しの利益とは何かというものである。許しの利益は、肉体的・精神的・対人関係的・スピリチュアル的な健康をもたらす。許さないことはストレスフルであり、加害者への敵対的な感情を生み出す。それはタイプAの敵意と関係があるとされる。またある調査においては、老人たちにおいて許しは低い健康上の問題と関係するとされる。また許しは心理的な健康と幸福に関係あるとされ、少なくとも許さない人々においては怒りと抑うつが認められる。また、許しは少なくとも表面的には対人関係的な健康と定義上で関係する。スピリチュアルな面でもそうであろう。

 六つ目は、許しのコスト・限界・医学的影響についてである。許しはコストを伴い、何かを諦めるというものである。

 七つ目は、許しを促進する介入についての疑問である。

 八つ目は、許しの将来的な研究の展望についてである。

 

コメント

  Worthingtonが編集者となった大著Handbook of Forgivenessの最初の章。Worthingtonからみた許し研究の概略と、心理学における許しの代表的な定義としてEnright、McCullogh、そして自分のをあげている。自分のだからかな。でもこの三者の許しの定義の違いというものは、結構わかりやすくまとまっているのではないのでしょうか

 

URL(Google Book)

books.google.co.uk

 

 

問い合わせなどありましたらokazukinekoあっとじーめーるどっとこむ、まで。